
うちの親方さまは、立派なお方だ。
多頭飼いのわが家で、われわれ猫同士の争いがないよう、蔭に日向に取り計らって下さる。
ご飯だって自分はいつもいちばん最後。食べ盛りの若い猫たちから先にと、開けたての缶詰のおいしいところを食べさせるんじゃ。
リビングの窓際に置かれた籐椅子の上が、わが家でいちばん日当たりが良いんじゃが、親方さまがそこでくつろいでいるのなんか見たことありゃせん。
子猫たちの格好の昼寝場所になっとるのを、目を細めて眺めておいでになる。
利他主義と言うんかな、自分のことはさておいて、ほかの猫たちのことを優先して考えて下さるんじゃ。
とにかく人のできた…いや、猫のできたお方なんですじゃ。
いつだったか、飼い主さんが出かけている時、若くて元気なオス猫がはしゃぎすぎてカーペットに粗相してしまったことがあってな。
夕方、飼い主さんが帰宅する時間になったら親方さま、やおら動き出して、どこへ行くかと見ていたら、なんと粗相した場所のすぐ脇に寝そべってな。
それを見た飼い主さんは、親方さまが少しもうろくしたと勘違いしてな、しばらく猫用おむつをはかされて、ずいぶん歩きにくそうにしていたものじゃよ(笑)。
とまあ、親方さまは、本当によくできた猫ではあるんじゃが…。
親方さま!その寝姿だけはいただけませんですじゃ!
リーダーとしての日頃の疲れがたまっているのは重々承知しとります。
しかし、その、あられもないお姿、見ていられんのです!
若い猫たちのあいだじゃ、「親方さま~!起きてけろ~!」が流行り言葉になっとるんですぞ。
お気に入りのソファーなのもようわかっとります。けども…だども…
ああ、寝姿に親方としての威厳がまるで感じられないなどとは口が裂けても申しますまい。
ああ、ぶらぶら動くしっぽがまるで子猫の猫じゃらしだなどとも決して申しますまい。
ああ、動画を見た人は親方の寝相のまぬけっぷりに癒されちゃってるなどとも申しますまい。
ああ、親方~!とにかく早く起きてけろ~!